双舵の美人と言われた九六式中攻と本庄季郎

 千葉から一旦戻って参りました(^^)。今週はずっとあっちへ行ったり、こっちに来たりと飛び回っておりましたし、色々な人とも話をして心も飛び回っておりました。
 でも、趣味というものがあると、飛び回っていたザワザワした心もちゃんと戻ってくるから不思議です。心がワクワクする趣味を持っているというのは、人生の安定とか、幸福という意味で良いものですな。
 ということで、久しぶりのヒコーキネタを。


九六式.JPG



双舵のベル(美人)と言われた九六式陸上攻撃機


 ちょっと古い話で恐縮ですが、宮﨑駿監督の映画「風立ちぬ」の中に登場してきた堀越二郎の友人に本庄季郎というイケメンがいました。











Cap 340.jpg


なんか人気でしたね(笑)


 映画では同期のように描かれていましたが、実際には、本庄氏の方が東京帝国大学工学部航空学科の一期先輩です。二人共、三菱に入社し、零戦と一式陸上攻撃機を設計して世に知られるようになりましたね。
 映画では、その一世代前の飛行機として、九六式艦上戦闘機(映画では九試単座戦闘機)の飛行が成功するところで終わっていましたが、日本の航空機産業を飛躍的に押し上げたのが、この零戦の一世代前の九六式艦戦と、一式陸攻の前の九六式陸上攻撃機と言われております。
 映画でも八試特偵(後の九六式陸上攻撃機)という名前の曲がサウンドトラック盤で出ていました。

 九六式陸上攻撃機の初飛行は1935年7月。支那事変から太平洋戦争の初期まで活躍し、後継機として一式陸攻にその主役の座を譲りましたが、高い航続性能を誇り、1941年の太平洋戦争の勃発には、一式陸攻と共にイギリスの戦艦、プリンス・オブ・ウェールズとリバリスを撃沈するという戦果を上げ、当時の首相であったチャーチルを意気消沈させてしまいます。
 そのイギリス筋から名付けられたアダ名が「双舵の美人(べル)」ですので、にくき相手にも、そのデザインの良さは認められていたようです。

プリンス.JPG
当時の日本の艦船では撃沈不可能と言われていたプリンス・オブ・ウェールズ。
世界で初めて航空機のみの攻撃で撃沈した戦艦として歴史に名を刻むことになった。


 佐貫亦男氏の『ヒコーキの心』では、「スラリとした細い胴体もさることながら、翼端まで神経の行き届いた素晴らしい設計である。
特に美しいのが正面で、胴体、双蛇、ナセル、引き込み脚などのデザインも秀逸であるとも。」と絶賛しております。
 
 こういう批評を受けながら模型や図面を見るのが格段の楽しみでもあります(^^)
 設計者の苦労やセンスがこういう形で現れるのですね。



九六式陸攻.JPG



 九六式陸上攻撃機は、中型のサイズであるので、後継機の一式陸攻と共に通称「中攻」と呼ばれました。軍から払い下げられた機体の中には、国産航空機で初の世界一周に成功した毎日新聞社の「ニッポン号」などがあります。
 ドイツで言うとハインケルHe111に近い機体ですが、速度がやや落ちる以外は全ての点でずば抜けた性能で、特に航続距離はHe11の二倍半もあります。


日本号.JPG



本庄季郎氏について


 この本庄季郎氏ですが、この九六式陸上攻撃機の完成間近の1934年に日本航空学会の懇談会でこんな意味の発言をされています。
 「今のエンジンは、油温計、油圧計、回転計、それにこの頃は排気分析計までつけている。これではまるで、体温計を脇の下へはさみ、血圧計を腕にくくりつけ、脈を測り、それに呼吸の分析をしながら走っているランナーのようなものだ。こんな計器なんぞなくても大丈夫な丈夫なエンジンをつくってもらいたい」
 これを先程の佐貫亦男氏は、
ユーモアとアイデアとは同じ起源のものだと聞いていたが、上手いたとえだなと感心した記憶があるとのこと。
 無邪気で典型的な東京人で、対話していてもエスプリが星のようにきらめく人柄だったと言います。同じ設計者でありながら堀越二郎氏とは正反対の性格であったとのこと。

本庄&堀越.JPG
実際にはあまり仲が良くなかったようで・・・。



 余談ですが、この本庄氏と堀越二郎氏の設計に有能なブレーンとして携わった設計者に久保富夫氏が居るのですが(堀越二郎氏の4期後輩)、この方は、後の百式司令部偵察機という日本最速の優秀な飛行機の設計主任にもなりました。
 戦後は三菱自動車社長として「ギャラン」「ランサー」の名車を育てている方でもあるのです(^^)


<今日の一枚>

筑波山.JPG

 千葉からの帰り道は、つくば学園都市を通って筑波山を見ながら帰りました。筑波山の標高は877m。これは比叡山の848mとほぼ同じです。これ豆知識ですね。雲の影が山に写っていてその大きさに圧倒されます。

<参考記事>
「風立ちぬ」堀越二郎の友人、本庄季郎と一式陸攻。
映画「風立ちぬ」カテゴリ


この記事へのコメント

  • ねじまき鳥

    九六式陸上攻撃機スマートで端正な姿ですね。
    2017年07月29日 16:55
  • いっぷく

    映画に実在の人物を登場させるのはいろいろな問題を
    クリアせねばならなかったでしょうね。
    ところで描かれている堀越二郎は『魔女の宅急便』に出てきた
    トンボという少年に似ているような気がします。
    主人公、あるいはそれに近い人物は同じような
    顔立ちになるのかもしれませんね。
    2017年07月29日 21:00
  • tsumi

    「風立ちぬ」!懐かしいですね~映画館で観ました!確かに本庄さんは印象的でしたね^^
    でも、私はやっぱり堀越さんの方が不器用なくらいまっすぐで好きです!真実はこんな話があったのですね。奥が深いなあ~
    2017年07月30日 00:36
  • ys_oota

    えー!?「ギャラン」、「ランサー」の時の三菱自動車の社長って、百式司偵の設計主任だったのですか!どうりで当時の三菱の車ってユニークなデザインが多いはずだ。日産に吸収されましたが、また復活してほしいですね。
    2017年07月30日 02:10
  • 笠原嘉

    イギリス人にとって誇り高き戦艦、プリンオブウェールズが
    沈められた時のショックは大きかったでしょうね。
    今後ともよろしくお願いします。
    2017年07月30日 06:46
  • johncomeback

    確かにカッコイイですよね。
    機能美が無いモノは性能も劣るように思われます。
    2017年07月30日 07:46
  • 隊長

    比叡山と筑波山が、ほぼ同じ高さだとは意外でした。と言うか、筑波山、低いですね。それなのに、登山した時は、苦しかった。
    2017年07月30日 11:08
  • ワンモア

    ☆ねじまき鳥さま
     私もこの機体好きです。ニッポン号のように武装がない方が良いですね。
    ☆いっぷくさま
     宮崎アニメのメガネの優しそうな顔の人はみんな同じように見えます。私、トトロのお父さんに雰囲気が似ていると言われたことがあります(笑)
    ☆tsumiさま
     本庄氏は常識人で、堀越氏は変人と言われていたようですよ(;^ω^)映画でも飛行機大好きでフィアンセ、ほったらかしの所がありましたよね(笑)。
    ☆ys_ootaさま
     三菱デザインもユニークでしたし、SUBARUも中島飛行機譲りのデザインですよね。アルシオーネはもろ飛行機ニズムでした(^^)乗りたいとはおもわなかったけど(笑)
    ☆笠原嘉さま
     絶対に沈められることはない戦艦と言われたプリンス・オブ・ウェールズ。山本長官も艦隊戦では無理だろうと思っていましたから、チャーチル首相のショックでしたよね。その航空機によって逆に日本海軍艦隊が全滅するのですから歴史は皮肉です。
    ☆ohncomebackさま
     日本機って武装を外した姿の方が美しいと思います。逆にドイツ機は武装をガンガン見えるように取り付けたほうがカッコよく見えるから不思議なもんです(^^)
    ☆隊長さま
     私も地元の人に聞いて意外な感じを受けました。近くに来ると大きく感じます。巨大なものには引力を感じます。
    2017年07月30日 12:18
  • caveruna

    筑波山、ふもとまでは行ったことありますが、
    登ったことがありません。
    ロープーウェイがあるんですよね♪
    いつか行ってみようっと^^
    2017年08月02日 10:45
  • ワンモア

    こんにちは〜。
    筑波山、結構上の方まで奥まで道が続いていますよ。
    夜中にの帰り道にカーナビで近道検索をしたら、
    筑波山に登ってしまい、怖い思いをしたことがあります(笑)
    2017年08月02日 11:31

この記事へのトラックバック